【R5葛高112・orange】オレンジ色の風に乗せて(長月)~Septemberは7番目の月だった~
九月を迎えたものの、全国的には厳しい暑さが続いているが、空を見上げれば、秋の雲、鰯雲が浮かび、朝夕は、少しだけ涼しい風を感じられるようになった。日の出が少しずつ遅くなり、日の入りは日に日に早くなっている。秋が確実に近づいている。
英語を初めて学習したのは中学1年だ。「1月から12月までを英語で書けるように。」と課題が出され、「January(1月)、February(2月)、March(3月)、April(4月)、May(5月)、June(6月)、July(7月)、August(8月)、September(9月)、October(10月)、November(11月)、December(12月)」を何回もノートに書いて覚えた。丸暗記だ。高校入学後、世界史の資料集にも書いてあったと思うが、大雑把に言うと、古代ローマの暦は3月から始まり、そこから数えてちょうど7番目の月が現在の9月にあたるから、7番目の月ということで“September(ラテン語読みは、セプテンベル)”と表記されたのだという。英語も同じ綴りだ。
現在の暦は「グレゴリオ暦」と言われ、ローマ教皇グレゴリウス13世がそれまでのユリウス暦の改良を命じて、1582年10月15日(金)から使われている。太陽の動きをもとに作られた「太陽暦」だ。日本では明治6(1873)年に導入されたが、それまでは、月の満ち欠けと太陽の動きを加えた太陰太陽暦の「天保暦」を使っていたこともあり、旧暦という場合は天保暦を指す。旧暦にもとづいた習慣や行事などは、未だに私たちの生活に息づいている。今月は、「お月見」であろう。
旧暦の8月15日の月は、1年で最も美しく、中秋の名月(十五夜)として古来より愛でられてきた。国立天文台によると、今年の十五夜は9月29日で満月にあたる。この風習は平安時代に遡り、中国から伝わったもので、貴族は月を眺めながら、歌を詠んだりお酒を飲んだりしてその美しさに酔いしれたのだ。
平安時代後期の歌人である藤原顕輔(小倉百人一首では左京大夫顕輔)が、秋の月の美しさを詠んだ歌が「新古今和歌集」にある。
『プレミアムカラー国語便覧(足立直子他監修2017 数研出版 p.116)』によると、歌意は「秋風が吹いてたなびく雲の切れ間から、こぼれて差してくる月の光が、何と明るくすがすがしいことよ。」である。平安時代の夜は、街のネオンサインや街灯はある訳もなく、静寂と暗闇が支配していたからこそ、太陽の光を受けて輝く月の明るさが、人の気を引いたのだと想像するに難くない。
ところで、十五夜と言えば、ある昔話が思い起こされる。かぐや姫が登場する平安時代の『竹取物語』だ。かぐや姫が月に帰るあたりのあらすじを乱暴に思い出すと、
・・・8月15日が近くなった夜、自分が月から来た者だと育ててくれた竹取の翁に打ち明ける。帝がこれを聞きつけ、使者を翁の家へ遣わすが、翁は「8月15日に月の都からかぐや姫を迎えに来る。その日に警護の人々を派遣していただき、月からの人が来たなら捕まえましょう。」と言うと、これを聞いたかぐや姫は、そんなことはできないでしょうと言う。夜中の十二時頃、突然あたりが昼間のように明るくなり、大空から雲に乗って迎えがやってきた。天人が持つ箱の中には天の羽衣が、別の箱には不死の薬が入っていた。かぐや姫に天の羽衣を着せようとしたが、帝に手紙を書いたのち、せかされて天の羽衣を着せられた後、百人ほどの天人を連れて車で天に昇っていった。迎えが来る直前、かぐや姫は、自分が来ていた着物を形見として見てほしいこと、月の出ているような夜はこちら(月)を見てほしいことを竹取の翁に伝えていたのだった。・・・
今月29日の夜は秋風に吹かれながら、名月を見上げることとしよう。竹取の翁の代わりに、月の都で暮らしているであろうかぐや姫とその子孫の姿を想像しながら。
書き人知らず