【R5葛高071・orange】オレンジ色の風に乗せて(文月)~水平線を見ていた~
先日、出張先に行くため、車で国道45号を南に走っていた。海と空があまりに清々しかったので、急に海を見たくなり、偶然見つけた駐車帯に車を寄せ、停めた。ドアを開け外に出たら、海から吹く風が運んだ潮の香りに、包まれた感じがした。海を見たのはいつだったのか思い出せないほど、潮の香りに触れたのは久しぶりだ。遠くに水平線が見える。肉眼で見える水平線までの距離は、せいぜい16㎞位だそうだが、大航海時代の遥か以前、水平線の先に何があるのか誰も分からないような時代にさえ、星の動きを頼りに漕ぎ出して行った人たちがいた。彼らの勇気と行動力には、今更ながら驚かされる。
水平線を見ていて、昨年、その生涯を閉じたジャン=リュック・ゴダール監督が思い浮かんだ。デビュー作の『勝手にしやがれ』(1960年)を、20歳の頃に初めて見たが、脚本のない映画だからなのか、ストーリーはあまりよく覚えていない。だが、今でも忘れられない場面とセリフがある。それは、オープンカーを運転する主演のジャン=ポール・ベルモンドが、スクリーンから映画館の観客に話しかけるように顔をくるりと向け、「海が嫌いなら、山が嫌いなら、都市が嫌いなら、田舎が嫌いなら、勝手にしやがれ。」というセリフだ。意味は今でも分からないが、不思議で、しかし、妙な格好良さを感じた映画だった。その後も、ゴダール監督の映画を何本か見た中で、映画以上にラストカットで読まれた詩に衝撃を受けた。太陽が西の海に沈み始め、光を受けた波が揺れている場面で、読まれた詩だ。
映画を見たときは、恥ずかしながら誰の作品なのか知らなかった。19世紀フランスの詩人、アルチュール・ランボーが書いたことを後に知った。ランボーの生き方にも興味を持った。15歳で詩を書き始め、20歳で突然書くことをやめる。この数年間に多くの作品を書いたのだが、彼の作品は、後の芸術運動にも多大な影響を与えている。上述の詩は「永遠」という詩の一部で、17歳の時に書いたものだと知り、さらに驚いた。中原中也、金子光晴、堀口大學、小林秀雄など名だたる文学者も訳すほど、人気のある詩人だ。現代日本で言うと中学3年から高校時代を含む20歳までの5年間で多くの作品を書いたランボーが文学を志したのは、15歳当時、彼が学んでいた高等中学校に赴任してきた修辞学の先生との出会いがきっかけだったという。「修辞学」を乱暴に言うと、文章等の表現方法を学ぶというものだが、その先生から多くの影響を受け、詩作を始めたとされている。今でも世界中で多く読まれている詩人に、多くの影響を与えた先生の存在を思い出し、人との出会いは不思議であり、だからこそ魅力に満ち溢れている。
ハッとして腕時計を見たら、受付が始まっていることに慌てふためき、急いで車に乗り込み、会議場に車を走らせた。運転していたら、次のフレーズが頭をよぎった。
「葛高(ここ)にしかない出会いと学びを!」
書き人知らず